通常魔殺武具での具現化能力は無音で発生される。
音は標的に炸裂した時に初めて発生される。
しかし、今回戦闘はまさしく無音で行われていた。
背後より襲い来る虫を縦に切り裂く。
次の瞬間、振り向きざまに散弾が虫共を一網打尽とする。
紅玉達の攻撃開始から既に十分以上経過している。
俺の周囲には何十・・・いや、何百と言う虫の死骸が散乱していた。
ある死骸は縦にまっ二つにされ、ある死骸は全身蜂の巣とされている。
中には足だけ、羽だけと言う凄惨なものもある。
これらは『降臨』や『マシンガン』の直撃を受けたのだろう。
「さて・・・紅玉、青玉・・・この程度の雑魚で俺を殺せると思っているのか?」
「いいえ、とんでもございません」
「この子達は貴方のお力を測る試金石。やはり貴方と対等に闘うには象徴を持ちいるより策は無い様子」
俺の声に二人は微かな笑みを絶やす事無く言う、
「そうですね・・・では参りましょう。ここよりが真の闘いの始まり・・・」
「お見せしたしましょう・・・」
「「私達姉妹の象徴を」」
そういうと、二人は唐突に舞い始めた。
左右対称のまるで合わせ鏡の様に一糸乱れぬ優雅な舞。
しかし、その優雅な舞とは裏腹に姉妹の周辺に篭る瘴気は濃くなる一方である。
(志貴!!象徴を使わせるな!!)
(無論!!!)
俺は二人に斬りかかろうとするが、虫の大群がそれを阻む。
「ちぃ!!!邪魔するな!!!」
容赦無く虫を切り裂き、吹き飛ばし、蒸発させる。
その間に瘴気の密度は舞が進むに連れて増していく。
そして俺が虫の群れを突破したと同時に瘴気の密度は最高潮に達し、中から地響きが聞こえてきた。
「な、なんだと・・・?」
俺が濃霧の様な瘴気から現す、その姿を見極めた時唖然として立ち尽くしていた。
そこにいたのは灰色の屋敷と同じ大きさの生物・・・
(あれは・・・獏?)
鳳明さんの言葉に我に帰る。
「獏と言うと中国の空想上の動物で・・・夢を食う生物でしたっけ?」
「そう通りでございます」
「そしてこの子が私達の象徴"理の異なる世を繋ぐ獏"でございます。そしてこの子の能力は・・・」
その言葉と同時に獏は一歩進み、事もあろうか空間を食い始めていた。
「なっ!!!」
俺は唖然としたが体は自然に動いた。
『凶断』を抜きざま妖力の弾丸が唸りをあげて獏に襲い掛かる。
しかし、それらは獏の表皮すら傷付けられず霧散する。
いや、それどころか俺という存在を完全に無視して獏はただ黙々と空間をその胃袋に納め続ける。
「無駄ですよ。その程度の弾幕ではこの子にかすり傷すら付けられませんよ」
青玉の声は淡々としている。
「ちぃ!」
今度は『凶薙』から雷を発動させるが、それも徒労に終わる。
「くそったれ!!!こいつならどうだ!!」
そう叫び、『凶断』からは魔槍を、『凶薙』からは魔風を近距離で同時に叩き込む。
さすがに獏に小さいながらも傷をつける事が出来たが・・・
数秒後には完全に消え去っていた。
「こ、こいつは・・・」
見ると既に獏とほぼ同じ大きさの空間の風穴が生まれ獏はそこに体を突っ込んでいた。
「な、なに?」
(志貴!!奴を進ませるな!!嫌な予感がする)
「は、はい!」
こうなれば・・・
俺は上空に跳躍すると『凶断』から隕石群を左後足に集中的に打ち込み、続けざまに『凶薙』からは竜を派生、同じ地点に突入させた。
今度ばかりは効果があった。
獏の左後足は大きく抉れ僅かに繋がっているだけとなった。
しかし、それと同時に獏は空間の穴にその巨体をねじ込ませる。
その瞬間、獏の体がその穴と一体化し別の形に変貌を遂げた。
それはあたかも門のように・・・
「?何だ?」
俺が首をかしげた瞬間、門が大きく開かれ門の奥からなにかが近付いてきたのか空気が鳴動する音が聞こえてきた。
咄嗟に門の直線状から避けた瞬間、門からそれが飛び出してきた。
「・・・あ、ああああああ・・・」
それは巨大な腕だった。
あれ程馬鹿でかい空間の穴がその腕を通すのが精一杯となっている程の巨大な腕が。
五本の指全てに人など掠めるだけで解体出来そうな鋭利な爪を生やした夜の闇の様に青ざめた腕はしきりに手探りしている。
「紅玉!青玉!こいつは・・・」
「異界の悪魔(デーモン)でございます」
「はい、それも八妃の一人である真祖の姫君と同等の」
「ば、馬鹿な・・・」
余りの事に鳳明さんが出て来た。
「幾らお前達二人の力が強力とはいえ真祖クラスの生物の召喚など不可能だ・・・」
「それを可能としているのがこの子の力・・・」
「この世界と異世界の境界線を全て食らい尽くして一時的ですが境界を零にするのです」
「ですから私達だけでは召喚が不可能な生物も呼び出すことが可能となっているのです。」
「最も・・・余りに大きすぎてこの子でも腕一本しか呼び出せませんでしたが・・・」
それでも最悪とはこの事か・・・この象徴はその名の通り異なる世界を繋ぐ門となるということか・・・
「さあ・・・貴方の仕事は目の前にいる人を殺してしまう事・・・」
「遠慮はいりません。貴方の力全てを用いて抹殺しなさい」
その言葉と同時に悪魔の腕は蛇が鎌首をもたげる様にゆっくりと上がり、俺にその掌を向ける。
次の瞬間、その掌は俺を押しつぶさんと凄い速さで突き出してきた。
予測していた俺は半瞬の差で回避したが、俺のいた箇所は掌から半径十メートルに渡って陥没していた。
「冗談じゃない・・・アルクェイドと同等だが体がでかい分あっちの方が力では上かよ・・・」
しかもあれだけの巨体にもかかわらず早さも俺とほぼ同じ・・・
(志貴!!考えている暇は無い!!来る!!)
「!!!」
俺の眼の前にはトラックと同じ大きさの腕が俺を薙ぎ払おうと振り回そうとしていた。
「くそっ!!」
咄嗟に八穿で回避しつつ斬り付ける。
しかし・・・悪魔の腕にはかすり傷程度しか付かない。
(志貴・・・死線や死点は?)
(駄目です。あいつの線はきわめて細い。不可能じゃありませんが骨がいりますよ。おまけに点はまったく見えない)
(ちっ、そんな所まで真祖と同等か)
体勢を整え今度は魔槍を発動させる。
だが、それを食らっても槍の方が霧散し、悪魔はその衝撃をもろともせず、腕は再度唸りを上げて俺に襲い掛かる。
幸いスピードはあるが動きは単調なのでかわす事が出来る。
しかし、振り回し終えると悪魔は拳を握りしめ俺目掛けてそれを突き出した。
あの悪魔の腕の長さはおよそ十メートル。
それに対して俺との間合いは倍の二十メートル。
普通なら届く距離ではない。
しかし、俺の直感は破滅的な危機を感じ、咄嗟に全身のばねを使いそこから逃げた。
その僅か一秒後、至近で巨大なものが高速で通過したかのような耳鳴りが響き、俺の後ろにあった柵が拳の形に吹き飛ばされ、更に後方の屋敷の壁を陥没させた。
「・・・衝撃波で・・・」
俺には絶句する暇も与えられなかった。
もう既に悪魔の腕はそれを繰り出そうとしていた。
「!!!」
更に回避するが、第三射の際に反応が半瞬遅れた。
衝撃波が巻き起こす突風に巻き込まれバランスを崩す。
その瞬間俺はあの衝撃波の射程ど真ん中にいた。
半ば本能で『凶薙』からは竜を、『凶断』は防壁を派生させる。
衝撃波は竜と暫し押し合いをしていたが直ぐに吹き飛ばし、俺に直撃した。
「がふっ!!」
防御を万全にしたにもかかわらずこの破壊力は予想外だった。
俺は一気に柵に叩きつけられその場に倒れ付した。
「ぐぐぐぐ・・・」
肋骨が少しいったかもしれない。
「あら?あれを食らって五体満足とは・・・」
「やはりその魔殺刀の具現化能力は侮れませんね」
その声に俺が顔を上げると、数メートルの場所に拳がある。
至近・・・いや、零距離に等しいこの地点であれを再度食らえば俺の体は粉砕される。
「さあ、獏よ・・・いささか物足りないでしょうが止めを」
紅玉の言葉に拳が弓を引くように後方に下がる。
そして、俺目掛けてそれが繰り出されようとした瞬間
「ロック解除・・・ガンバレルフルオープン!!」
聞き覚えのある声と見覚えのある一撃が悪魔の腕左側面に命中し狙いは十数メートル大きくずれた。
「これは・・・」
「志貴!!!」
そんな声と共にシオンが俺の元に駆けつける。
「シ、シオン・・ぐっ!!」
こ、こいつは・・・ひびどころか数本は確実に折れてるな・・・
「志貴!・・・やはり遺産と戦っていたのですね・・・」
見るとシオンは俺を案じる色よりも自責の色の方が強く出ていた。
「し、しかし・・・どうしてここに?」
「沙貴が全員を説得したからです」
「沙貴が?・・・シオン!!避けろまた来る!!」
俺とシオンが話しているうちに腕は体勢を立て直し、再度一撃を食らわせようとするが今度は
「カルヴァリア・デスピアー!!!」
丁度手首の部分に先輩が現れ、第七聖典を直接押し当てて連続発射する。
流石にこれは効いたらしく、腕は苦悶する様に後方に下がる。
「七夜君!!」
「代行者!直ぐに志貴の治療を!!」
「ええ、・・・!!これは・・・肋骨が三・四本折れてる・・・一本は粉砕の恐れすらありますね・・・これは私だけよりも翡翠さんと琥珀さんの感応能力も利用しないと・・・」
「先輩!!俺の事よりも!!まただ!」
再度体勢を立て直した悪魔の腕は今度こそ俺達を粉砕しようと拳を握り込む。
「大丈夫ですよ、七夜君」
「ええ、後は真祖達に任せて下さい」
その言葉と同時に、
「肉片も・・・残さないんだから!!」
唐突に出現した幾千という鎖が腕を貫き、
「躾が必要な様ね!!」
腕を囲むように『檻髪』が発動、腕は見る見るうちに萎み、
「・・・許さない!!」
天より舞い降りた黒き堕天使が肘の部分を破壊して腕を切り落とす。
「!!獏、その腕を一旦引かせなさい」
「ええ、新たなる腕を」
それを見た紅玉と青玉の声に切り落とされた腕が異世界に帰っていく・・・
「志貴!!」
「兄さん!!」
「「志貴様!」」
「志貴さん!!」
「兄様!!!」
その声と共にアルクェイド達が駆け寄る。
「み、皆・・・くっ・・・た、助かった・・・」
出来れば顔を上げたかったが、折れた骨が激痛を全身に叩き込む為にそれも難しい。
「そ、そんな・・・私達は志貴に謝らないといけないのに・・・」
「謝る??」
その声と共に沙貴が泣く寸前の声で
「・・・ひっく・・・ごめんなさい兄様・・・また・・・また私・・・兄様を・・・」
それを皮切りに
「志貴・・・ごめん・・・」
「七夜君申し訳ありません・・・迂闊にも遺産の術中にはまってしまった様で・・・」
「兄さん・・・ごめんなさい・・・」
「し、志貴様・・・申し訳ございません」
「志貴さんすいません」
「志貴申し訳ありません。もっと貴方の事を信じればよかったのに・・・」
皆が口々にそう言って謝ってくる。
「・・・良いって皆、あれだけの精巧な幻術じゃあ惑わされるのも・・・があぁっ!!!」
「ああっ!!そ、そうでした!!翡翠!琥珀!!志貴の治癒を!!肋骨の骨が数本折れています!」
「だ、大丈・・・うがぁ!!」
「志貴様!!」
「無理をしてはいけませんよ志貴さん、翡翠ちゃん、ともかく感応で応急処置だけでも行いましょう」
「は、はい姉さん」
そう言うと翡翠と琥珀さんは俺とのキスを行う事で体液の交換を早急に行う。
それと同時に俺の体内に温かい力が溢れ折れた骨が繋がるのをはっきりと覚えた。
しかし、粉砕している肋骨はそう簡単に繋がるものではない。
「志貴、ゆっくり休んでてね。その間にあの姉妹は私達が倒してくるから。それとレンは志貴の介抱をしてて」
アルクェイドの言葉と同時に先輩・秋葉・シオン・沙貴が前に出て、翡翠、琥珀さんにレンが俺を抱える様に後方に下がる。
「さてと・・・随分と面白い事をしてくれたわね」
アルクェイドは紅玉・青玉を睨みつける。
「まったくですね」
先輩は既に黒鍵を構えていた。
「覚悟はよろしいかしら?」
秋葉も髪を真紅に染め上げて『檻髪』発動させようとする。
「無駄な抵抗は止めた方が身の為ですよ」
シオンは銃を構える。
しかし、そんな中沙貴のみが違う反応を見せていた。
「一つ伺いたい事があります。どうしてこの様な事を?」
その言葉にアルクェイド達は面を食らった様だったが直ぐに反論してきた。
「ちょっと沙貴何に言っているのよ」
「そうですよ沙貴さん。そんな事を答える筈がありません」
しかし、
「良いですよ七夜沙貴。お答えします・・・簡単に言ってしまえば貴女方八妃が羨ましかった」
「その中でも七夜沙貴、貴女が殊のほか妬ましかった」
「えっ?妬ましい?」
「そうよ。貴女と私達、同じ『凶夜』の女にも拘らず余りにも違いすぎる立場が妬ましかった」
「どう言う事?沙貴が妬ましいと言っているけど彼女だって散々苦労を重ねてここまで来たのよ」
秋葉が反論する。
しかし、それには直接には答えずに更に言い募る。
「七夜沙貴。貴女は全てを得たわよね。最愛の男性から得られる純粋な寵愛と安息に満ちた幸福な日々・・・あなたはそれに満足しているわよね?」
「当然です。兄様にお会い出来たしお力にもなれる。私今日まで生きてきて、ここまでの幸福を感じた事は無かった・・・」
「でもね!!・・・私達はそれを得られなかった・・・」
「後もう少しで得られる筈だった・・・それをことごとく七夜に奪われた!!」
「眼の前であの人を失い、私達は姉妹共々己をも失った。それ以後遺産として生きてきた・・・」
「でもその時にあの人に瓜二つな人が現れた。それが彼七夜志貴だった!!」
「だから、僅かな時でも良いから得られる筈ないと諦めていた優しい時にこの身を任せたかった・・・」
血を吐くような独白に箱庭に沈黙が舞い降りた。
「だからね・・・これは私達の八つ当たり」
「ええ、存分に恨んでも憎んでも構わないわ。私達は私達の執り行う事を行うだけだから・・・獏!!私達が許可いたします。食らいなさい」
その言葉に門と化していた獏が急速に元の姿に戻る。そして、その空間から何か巨大なものを咥えて引きずり出してきた。
それは奇怪な肉の塊だった。
あの悪魔と同じ肌の色をした肉の塊・・・そして、内臓やら毒々しい水色の液体がぶちまけられた・・・
それを事もあろうに獏は一心不乱に食い始めた。
そして、それが終わった瞬間、獏の体に変化が急激に始まった。
体の随所が膨張と縮小をはじめ、肉体が変化を始める。
両前足に指が生え出し、更につい先程まで見た爪が生えてくる。
両後足もぐんぐん伸び、遂に、二足で立ち上がる。
灰色の体毛が抜け落ちてその下の肌が蒼ざめていく。
やがてその顔も変貌をとげ、そこには先程まで腕だけ召喚されていた異界の悪魔が立っていた。
「な・・・そんなでたらめありか?」
俺の呟きに青玉が笑いかける。
「ええ、この子は生物の肉を食する事でその生物と一時的に同化出来るんですよ」
「もっともこの方法は私達の力の消耗を激しくしますが致し方無いのでしょう・・・」
「さあ獏・・・」
「「存分に暴れなさい」」
その言葉と同時に悪魔は声にならぬ声で吼えた。
「!!翡翠・琥珀兄さんを連れて下がって」
秋葉が若干下がり『檻髪』の展開を始める。
「シエル、妹、あとシオン、癪だけどあんた達は支援頼むわ」
「皆さんよろしくお願いします」
アルクェイドと沙貴が左右に展開して接近戦に入る。
「無論です。モードチェンジ!!」
先輩は第七聖典をあのバルカン砲に変更させる。
「判りました真祖、沙貴」
シオンは静かにエーテライトを引き出し、銃も同時に構える。
そして、彼女達と異界の悪魔と化した象徴の戦いが始まった。
肉薄したアルクェイドが強烈な一撃を叩き込むが微かに傷を受けるだけ。
しかし、深追いする事無く離脱すると、そこにシオンが銃を撃ち込み、傷を広げ、秋葉の略奪が傷を劣化させる。
反対側では沙貴の『破壊光』が寸断無く悪魔に襲い掛かり『八点衝』を思わせる『破壊光』の掌打を繰り出し、小さいながらも確実に削り落としていく。
たまらず悪魔は一歩下がり蝿の様に小賢しい沙貴達を吹き飛ばそうとするが、その瞬間を見定めたように聖典の雨が動きを封じる。
これが反復されて、悪魔は瞬く間に全身に傷を負っていく。
様は力で勝てない相手に機動力・・・スピードで撹乱し、一撃離脱で確実に相手に負傷を与えていると言う訳だ。
紅玉はやや眉間にしわを寄せる。
劣勢に若干焦りの色を浮かべている。
「まずいわね・・・このままだと獏が押し切られる・・・青玉」
「判っております姉上」
「獏の開けた穴でどれだけの者を呼べそう?」
「まだ充分に繋がっていますからそれなりの者でしたら・・・流石にあの悪魔以上は不可能ですが」
「構わないわ。呼び出しましょう」
「はい姉上」
その言葉と同時にあの獏が開けた穴からまた異生物が姿を現した。
今度のそれは、姿は例えるならそれは蟷螂だったがその大きさは普通の大人程あり、更に両手の巨大な鎌を舐め回していた。
子供が良く見る特撮番組に出てくる怪人のようないでたちをした異生物がぞろぞろと穴から湧き上がってくる。
十数匹ほどいるだろうか?
「くっ!!皆!!」
「大丈夫よ志貴」
「はい、あの生物の強さはよく見ても並みの死徒程、それが加勢しても対した脅威ではありません」
「違う!!そいつらと悪魔と組ませるのは・・・」
そう、俺も二人と同じ立場だったらそうする。
異生物は一斉に背中の羽で舞い上がり、五つに分かれて、全員に襲い掛かる。
だが次の瞬間沙貴は既に異生物のうち一匹の懐にまで入り込み、
「たあ!!!」
『一風』の要領で脳天から地面に叩きつける。
それも『破壊光』で下顎部分を壊しながら。
更に今度は『八穿』の様に上空から襲撃を掛けて頭頂部から股の部分までを破壊する。
他の皆も容易く異生物を撃破していく。
しかし・・・
「ふんっ!!こんなのあのアーパー生物に比べれば蚊トンボみたいな・・・」
「秋葉!!避けろ!!!」
「えっ?」
俺の声に反応して秋葉がその場を離脱する。その瞬間悪魔の拳がその地点にめり込んでいた。
「やはりか・・・」
あの異生物が単体ならアルクェイド達に叶う筈もない。
しかし、異生物が牽制し、攻撃の主体を悪魔にしたらそれは驚異的となる。
あれのスピードは先輩とほぼ同じ位。
「うわわっ!!」
「きゃあ!」
「くっ!!み、皆さん!!このままだと危険です!!」
「仕方ないですね。一旦集まって!!」
その先輩の声に何をしようとする気なのか悟った。
そしてそれは極めて危険であるという事も。
「駄目だっ!!集まるな!!」
しかし、俺の声も空しく、全員一箇所に集まる。
そして異生物も一つに固まった瞬間、先輩の第七聖典『グラスパーモード』が火を噴いた。
あっと言う間に異生物は蜂の巣にされ墜落していく。
しかし、次の瞬間悪魔は口から巨大な火炎弾を吐き出した。
咄嗟にシエルは帰す刀で『グラスパーモード』を火炎弾に向けて銃身が砕けろと言わんばかりに撃ち込む。
火炎弾と、聖典の雨が中央でぶつかり合う。
それでも押し切られそうになった瞬間、シオンのブラックバレルが火を噴く。
それによって火炎弾は弾かれ天空高く飛翔していった。
しかし、息を付く暇も無く、腕を振りました事で生じた衝撃波が全員を襲う。
咄嗟に秋葉・アルクェイド・沙貴が離脱するがシエル・シオンは成す術無く直撃を受けた。
「「きゃあああああ!!!」」
「シエル!」
「シオン!!」
二人は十数メートル吹き飛ばされて柵に激突する。
「これで足止めは消えた・・・」
「獏遠慮なく畳み掛けなさい」
その命令と同時に悪魔は両腕を振り回す。
その瞬間全方位に衝撃波が迸り、至近距離にいた三人は防ぐ暇も与えられずに
「「「きゃああああああ!!」」」
地面に叩き付けられた。